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「パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から」似鳥 鶏
文春文庫 ISBN:978-4344420793

創元ミステリ文庫の「葉山君シリーズ」で人気の似鳥 鶏さんの新刊は、動物園ミステリーの続編かと思いきや、恐らく新シリーズになるんだろうという「パティシエの秘密推理」です。

「葉山君シリーズ」は、東京創元社お得意の日常の謎系の青春ミステリです。どちらかというと本格に近い正統派ミステリです。

「葉山君シリーズ」の感想はこの辺りに書いています

それに対して、この「パティシエの秘密推理」は、それよりはミステリ色は弱いですかね。また、「動物園ミステリー」は、本格というよりも、サスペンス色とコメディ色が強い感じなので、その中間って感じですか。

まぁ、構成的には、どのシリーズも連作短編という感じが同じですが。で、どういう内容だったかなどは、この後の感想で。

ということで、とっとと行きます。

ひとまず出版社からあらすじを引用しておきます。

あらすじ:出版社から引用)

警察は辞めました。今は、パティシエです。

容姿端麗、仕事は一流。でも、人付き合いの苦手な惣司智は、警察を辞めて兄の季が継いだ喫茶店でパティシエとして働き始めた。

鋭敏な推理力をもつ智の知恵を借りたい県警本部は、秘書室の直ちゃんを送り込み難解な殺人事件ばかり相談させている。
弟をお菓子作りに専念させたい兄は、なくなく捜査の手伝いを。

人の良い兄の困り果てた事態を見かねた弟は、しぶしぶ事件解決に乗り出す羽目に……。
とっておきのスイーツが手がかりになる優雅で美味しいミステリー。

感想:

ん~、まえがきでも書きましたが、ちょっと中途半端かな~。

出版社に頼まれて、一部のミステリマニアにはそこそこ人気があるけれど、もう一つブレイクできないという立ち位置を脱却しようと、今流行りのお店系ライトミステリを書いてみましたという感じだったのでしょうか。

ただ、智が解決する事件は、警察が関わる本格的な殺人事件とあって、内容的には重くて、ライトミステリを期待して読み始めるとちょっと違うという感じでしょうか。

<以下、本の中身に言及している部分があります。ネタバレはしないつもりですが未読の方はご注意を>

連作短編なので、最後の短編に全体の構成が収束するんですが、特にラスト一本のお話が重いですね。事件の犯人がというよりも、智の考え方が重い重すぎる。

それもあって、雰囲気と内容とがリンクしていない感じがして、ちょっとという感じがしました。他の作品とは一線を画したかったんでしょうけれど。

ミステリとしては、殺人事件を扱っているだけあって、ライトミステリというわけには行きません。智の安楽椅子探偵の形式を採っているわりには、しっかりと現地調査を行います。その関係もあってか、「葉山君シリーズ」などよりはミステリ色が薄い感じがします。

あまり謎を本格的な謎として提示していないからでしょうか。本格ミステリというよりは、刑事物っぽいイメージがあります。もう少し、智が活躍すれば印象が違うんでしょうけれど。

例えば、「星空と使者と桃のタルト」ならば、密室として扱えば、もっと本格ミステリっぽくなったんですけれどね。

まぁ、登場人物に関しての謎、兄弟の両親のことや、警察の動きなどが何もクリアになっていないので、恐らくは続編が出るんでしょうね。似鳥さんの本にしては、かなり売れているようですし。