Ja 「生者の行進」石野 晶
ハヤカワ文庫JA  ISBN:978-4-15-031066-0

本当は、あまり感想を書くつもりはなかったのですが、小野 不由美さんの新刊『残穢』の感想を書きたかったんですよ。ただ本を買えたのが今日だったので。良く考えると、発売日は明日ですが。(苦笑)

さて、新しいハヤカワ文庫JAということですが、どうやら本格ミステリやハードボイルド、SFといった既存のハヤカワ文庫JAとは異なり、じゃっるミックスや境界ジャンルの作品を出版していくようです。

ということで出たこの『生者の行進』ですが、分類するとジャンル的にはミステリでしょう。近いとすれば、桜庭一樹さんに近い感じでしょうか。

ということで、感想行きます。

まず、出版社からあらすじを引用します。

あらすじ:

あなたの罪は全部私が引き受ける――少年少女を繋ぐ昏い絆とは?

美しく奔放な従妹の冬子に、隼人は高校生にいたる今まで、悩まされていた。冬子は友達を作らず、隼人が親しい友人を作れば恋を仕掛けて奪い捨てる。

そんな冬子が初めて連れてきた女友達が美鳥だった。

だが隼人の目前で、美鳥がドッペルゲンガーを見たと言って倒れ……喪った命と絶望の記憶に苛まれる 少年少女が出会うとき、幼い心に刻まれた罪の時間が動き出す。

痛ましいまでに繊細な、煌めく若者たちの青春群像ミステリ。

感想:

ん~、 楽しくは読めたのですが、期待していたほどは、面白くなかったです。

読んだ感じの手触りは、先に書いたように桜庭 一樹辺りなんでしょう。彼女の後からは、どんどんフォロワーが続いていますが、その流れでしょうか。

多感な少年、少女の心理面をあからさまに、冷やかな視線で描く、それでいながら立ち位置は、彼らの位置にいるといった感じでしょうか。『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』がその代表格でしょう。

今回の作品の中では、冬子がそれら作品の登場人物的な扱いをされていると思うのですが、ちょっと中途半端ですね。

中心となる人物が4人いるわけですが、どうも視点がばらけているというか、主人公は隼人なんでしょうけれど、彼の目を通して見る他の3人が彼の感情が揺れないためか、あまり魅力的に見えないんですよ。

冬子視点のときには、彼女自身を客観的に描写できないので、どうしても平凡に見えてしまいますし。彼女が、あの人に惹かれていく理由もさっぱりわからないし。

ドッペルゲンガーという超常的なキーワードが出てくるのも、意識しているかどうかは別にして桜庭的ですが、どうせならドッペルゲンガーをもっと引っ張った方が面白くなったのではないかと思います。それで、ファンタジー色が強くなっても、石野さんの土俵だと思うので、悪くはならないと思うんですけれどね。

恐らく、ドッペルゲンガーと、美鳥の面白い性格(?)が良かったのに、彼女が動くことがなく有効に使われていないところに不満があるのかもしれません。

ちなみに、「生者の行進」って、ホロコーストのあれですよね。まぁ、確かにわからないでもないけれど、ちょっと無理があるかなぁ。