Ko 「ココロ・ファインダ」相沢 沙呼
角川書店 ISBN:978-4334928216

第19回鮎川哲也賞ということで、派手にデビューをした相沢 沙呼さんの新作です。この本の2ヶ月前には『マツリカ・マジョルカ』が出たばかりですが、連続して出版です。

『マツリカ・マジョルカ』の感想はここ

『ロートケプシェン、こっちにおいで』の感想はここ

まぁ、書き下ろしではないので、連載とか、連作で書いていたものが溜まったためだとは思いますが。

どちらも、写真部のメンバーが重要な役割を担っているので、なんとなくシリーズっぽい印象も受けてしまいます。まぁどちらも青春ミステリですが、色合いは違いますけれどね。

ということで、『ココロ・ファインダ』感想行きます。

出版社からあらすじというか紹介を引用しておきます。

あらすじ:

覗いたファインダーが写し出すのは、少女たちのココロの揺らぎとミステリー

高校の写真部を舞台に、女子高生たちが構えるカメラに写るのはともだち、コンプレックス、未来、そしてミステリー。

自分の容姿に自信がもてないミラ、クラスの人気者カオリ、「わたし」というしがらみに悩む秋穂、そして誰とも交わろうとしないシズ。

同じ高校の写真部に所属する4人は、性格も、好きなカメラも違うけれど、それぞれのコンプレックスと戦っていた。

カメラを構えると忘れられる悩み。
しかし、ファインダーを覗く先に不可解な謎が広がっていて……。

少女たちは等身大の自分を受け入れ、その謎に立ち向かう!

感想:

それぞれのコンプレックスね。この『ココロ・ファインダ』のテーマとしてはそうなんでしょう。面白かったです。『マツリカ・マジョルカ』は、ちょっと違和感がありましたが、これは良かったと思います。小説としてはですが。ミステリとしては、どうなんだろう。

『マツリカ・マジョルカ』は、まだミステリとしての体裁を採っている感じがしましたが、この『ココロ・ファインダ』は、ミステリ色をギリギリまで薄めているという印象があります。というか、登場人物たちに聞くことができれば、自分たちは謎解きをした覚えがないというかもしれません。また、普段ミステリを読まれない方は、これをミステリだと言わないかもしれません。

それほど、表面上はミステリ色を排除していますが、背景にはしっかりとミステリが根付いています。短編連作なんですが、どれにもしっかりと謎の提示と解明が入っていますから。

小説の体裁としては、連作短編で、それぞれの短編で主人公が変わっていきます。それが、皆写真部に所属する少女たちで、それぞれがそれぞれの想いを胸に闘います。

ただ難点を言えば、登場人物たちがどれも同じ年頃の同じ写真部のメンバーで、同じように悩みを持っているので、ちょっと違いが分かりにくいです。そこの書きわけができるようになれば、いいんでしょうけれど、どのシリーズの人物もちょっとイメージが似ちゃうんですよね。『マツリカ・マジョルカ』は、ちょっと毛色の違う人物を出そうとして失敗しているイメージだし。

いや、面白かったので、残念という感じです。

それはそうと連作短編なので、それぞれの感想を書いておきましょうか。

◆「コンプレックス・フィルタ」

ミラと呼ばれる同じ写真部の美少女にコンプレックスを持つ少女のお話。

ここまでは、普通の青春ミステリって感じもしていました。

◆「ピンホール・キャッチ」

下級生の秋穂が中心のお話。自分は光が当たらないと考えています。

この本の中では、ミステリとしては一番落ちるかも。

◆「ツインレンズ・パララックス」

美少女カオリのお話。この本の中では、一番というかダントツに面白かったです。何がコンプレックスかは書きません。

これがラストでも良かったと思えるくらい、その前の小説が伏線になっています。これ以上書くと、ネタが割れるので書きませんが、お勧め。

◆「ペンタプリズム・コントラスト」

写真部のエース・シズのお話。その写真がコンプレックスになっています。

前の三本のお話で、ずっと孤独を貫いてきた彼女の姿勢が伏線になっています。ラストに相応しいお話です。

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タイトルの『ココロ・ファインダ』と、写真部、そしてそれぞれの少女が持つ異なるカメラとが上手くまってしていて楽しめました。

まさに、少女たちのココロをファインダで覗くというのがぴったりくる小説です。ぜひお勧めしておきます。