Ne 「ねじまき少女 上・下」パオロ・バチガルピ
ハヤカワ文庫SF  ISBN:978-4-15-011809-9、978-4-15-011810-5

ということで、もっと早くにと思っていたんですが、なかなか機会がなくて遅くなりました。

ヒューゴー賞/ネビュラ賞/ローカス賞/キャンベル記念賞という主要なSF賞を総なめしたということで、話題になっていたからですね。

その割りには、日本ではあまり話題にならなかったといいますか、思ったよりも売れなかったんではないでしょうか。きっと表紙のためですね。(適当)

前評判的には、2010年代を代表する作品とも言われていますが、それはこの小説がエコSFとも採れる内容だからなんでしょうか。エコSFってなんぞや?ということですが、まぁあまり深く考えないでください。タイトルからも少し想像できますよね。って、こういうテーマのSFは昔からあった気もするけれど。

ということで、感想行きます。

あらすじを出版社から引用しておきます。

あらすじ:

◆上巻

石油が枯渇し、エネルギー構造が激変した近未来のバンコク。

遺伝子組替動物を使役させエネルギーを取り出す工場を経営するアンダースン・レイクは、ある日、市場で奇妙な外見と芳醇な味を持つ果物ンガウを手にする。

ンガウの調査を始めたアンダースンは、ある夜、クラブで踊る少女型アンドロイドのエミコに出 会う。彼とねじまき少女エミコとの出会いは、世界の運命を大きく変えていった。

◆下巻

聖なる都市バンコクは、環境省の白シャツ隊隊長ジェイディーの失脚後、一触即発の状態にあった。

カロリー企業に対する王国最後の砦〈種子バンク〉を管理す る環境省と、カロリー企業との協調路線をとる通産省の利害は激しく対立していた。

そして、新人類の都へと旅立つことを夢見るエミコが、その想いのあまり 取った行動により、首都は未曾有の危機に陥っていった。

新たな世界観を提示し、絶賛を浴びた新鋭によるエコSF

感想:

舞台はタイのバンコク。石油が枯渇し、エネルギー資源不足と環境汚染にあえぐ近未来(?)の物語です。

軸となるのは、カロリー企業と呼ばれるとタイ王国政府というか、まぁ群像劇ですね。登場する人物もタイ人が中心ですが、そこに西洋人や中国人、そして日本の「ねじまき」アンドロイド・エミコ。

日本人、アジア人の自分からすると、ちょっとおかしな表現も多いのですが、確かに面白いです。その面白味を支えているのが、世界観でしょう。

近未来ですが、「ねじまき」に代表される古くささというか世紀末感といいますか。SFでは近未来なのに古くさいというネタは結構使われますよね。日本SFや漫画が得意とする部分かもしれませんが、「未来世紀ブラジル」辺りを想像すると近いかもしれません。

ただ、「未来世紀ブラジル」はファッション、デザインとしてそういう面が使われていたと思いますが、この「ねじまき少女」では場末感がそのまま世界観を現すものになっています。

特に3・11以降、我々が持っている危機感というか終末観がこの小説からは漂ってきます。というか、「ねじまき」世界を書くことがこの小説の目的なのかも。なので、暗い、重いのは間違いないです。

それはさておき、ストーリーですが、いろいろと切り替わる視点やタイ人の名前の分かりにくさを除けば、非常に読みやすいです。世界観に興味が持てたことで、どんどんその世界を知りたいという気になったからでしょうか。

序盤がちょっととっつきにくい感じがありますが、そこを乗り越えれば後は一気なので、ぜひ読んでみてほしいです。

ラストというか後半は、ちょっと賛否がありそうですが。自分は、あれが登場しなくても、物語が成り立つんであれば、不要だったかなという気がしています。