E 「円環少女(12) 真なる悪鬼」長谷 敏司
角川スニーカー文庫 ISBN:978-4044267148

えっと、自分でもどうして今まで「円環少女」の感想を書いてこなかったのか分からないのですが、たぶん面倒だったんでしょう。ストーリーを説明することは難しくないかもしれませんが、テーマとかを書こうとするととたんに難しくなる。哲学的といいますかなんといいますか。

ですが、「円環少女」もこの12巻の後の13巻で終了ということで、書くチャンスがなくなりそうなので、ここで書いておきます。

5年続いてきた人気シリーズの最後なので、綺麗に締めてほしいところですが、この12巻はそこへの布石というか、ついに決戦の火蓋がってところです。

表紙は、武原 舞花ちゃんと「至高の人」アンゼロッタ・ユーディナですか。

ということで、感想行きます。

ということで、お初のものについては、ひとまず世界観から。

世界観:

舞台は21世紀初頭の日本、そこには異世界から次々と犯罪魔法使いたちが送り込まれていた。それはこの地球が、人間が魔法を観測すると魔法が破壊される「魔法消去」という現象が起こる「地獄」だったからだ。そのため、この地球では、多くの魔法使いが一般人を「悪鬼(デーモン)」と恐れ、観測される事から逃れ身を隠しながら活動していた。

そんな中、人知れず日夜治安維持のために戦い続ける「魔導師公館」非公式公務員の青年・武原仁と、犯罪魔法使いを100人倒すことで解放される「刻印魔導師」の少女・鴉木メイゼル、そして 滅びたはずの魔法大系を使える少女、倉本きずなを中心に物語は展開する。

そして仁は、「魔法消去」が産み出される理由と、神の降臨に立ち会うことになる。

最新刊のあらすじ:

-最新刊のあらすじをBOOKデーターベースから引用しておきます-

“奇跡”無き地に再演大系の“神”は降臨した。

神の“奇跡”は東京上空の核爆発すら封じ込め、街は奇妙な平穏の中、魔法使いたちを受け入れていた。魔法消去の力は弱まり、人の視線でかき消されるはずの“奇跡”が衆目の中でまかり通る。

舞花により再演魔術の力を得た聖騎士たちは、神の定める理想のために決戦を画策する。

―そしてメイゼルは文化祭の“白雪姫”のために帰ってきた!灼熱のウィザーズバトル、覚醒の第12弾。

感想:

さて、メイゼルの“白雪姫”があんな風に意味のあるものになるとは思いませんでしたよ。

ということは置いておいて、このタイトルの「円環少女」とは、メイゼルのことですよね。メイゼルは確かに小学生の少女ですが、この物語の主人公は「沈黙」武原 仁です。24歳のラノベではおっさんです。

それだけでも、ラノベとしては異質ですが、文章がまた読むのに時間がかかる。普通のラノベのようにスカスカの文章ではないこともありますが、哲学的で理解に時間がかかるからでしょうね。

さて、SF的にいうと、まず設定が面白いです。多重世界もので、それぞれの世界にはそれぞれの自然秩序に依存した独立した魔法大系が存在します。「円環少女」とは「円環大系」という周期運動するものに「魔力」を見出し支配する魔術世界の少女という意味ですね。で、ポイントはそこではなくて、地球にあります。

地球には自然秩序の欠落がなくそれゆえ神が存在しません。そのため人々は魔法の存在を認めず魔法は観測されると焔を上げて燃え上がります。しかし、人々にはその魔法も焔も見えない。それゆえ、魔法使いはこの地球では「悪鬼」と蔑む一般人を恐れて生活することになります。

これで、全ての辻褄を合わせているんですね。なるほど。

で、「魔法消去」を含め地球にも「カオティックファクター」と呼ばれる複数の種類の魔法が存在します。ただ、自然秩序の欠落がないため、その取捨選択がなされなかったのです。

物語は、その地球に訪れる犯罪魔法使いと治安を守る仁、そしてそれに協力する可愛い(?)少女メイゼルの活躍を描くと思われたのですが、物語の中心はその「取捨選択」の部分に移ります。

その「カオティックファクター」の中の一つに「再演大系」があります。「人間を操る秩序」であり「過去」を書き換えることができるもので、全ての魔法使いたちからも非常に恐れられています。その「再演大系」の魔法使いが倉本 きずなちゃんで、彼女の意志とは裏腹に争いの中心として巻き込まれていきます。

そして、この12巻からは、「再演大系」の神が顕現したことで地球の魔法バランスが崩れ、「再演大系」以外の「魔法消去」も含む「カオティックファクター」が弱体化していくことになります。

ここまでが、前振りです。はぁ長かった。

実は、自分は11巻までの倉本 きずなちゃんがすごく嫌いでした。全ての中心にいながら周りに迷惑をかけながら、周りに責任を転嫁して逃げ回る。いや~エバンゲリヲンのシンちゃんの方がまだ前向きですよ。(笑)

そんなきずなちゃんもこの12巻に至ってやっと腹を据えます。というか、今までも徐々にではありますが、変わってきていたんですけれどね。それでやっと仁と向かい合うことができるようになったって感じです。
変わったといえば、仁とメイゼルの関係もそうですね。恋愛かどうかはともかく、やっとお互いを思う気持ちが噛み合ったって感じでしょうか。仁もうじうじしてましたからね。

あの三人の想いというかきずなちゃんと仁の想いが噛み合う瞬間の描写が感動的でした。まさに「きずな」ちゃんならではって感じですね。嫌いだったのが変わってきました。

さて、「再演の神」が顕現したことで、物語はますます哲学的になっていきます。人間とは何か、神とは何か、時間とは何かとかを問うような展開になっています。文章も結構難しいので、普通の「メイゼル可愛い~」読者は、内容について来れているのか疑問です。

しかし、きずなちゃんの立ち回りにしても、舞花ちゃんの「蛇の女王(アスタロト)」能力から「再演大系」の神の降臨にしても、最初からこの展開は考えられていたということですよね。良くシリーズ化できたなぁと感じてしまいます。

ということで、次はいよいよ最終巻。どう落とすのか、未来はなぜ今を変えようとするのか。過去を人間を操る「再演大系」の前には全てが無効ではという気もするのですが、逆に言えば今を変えれば未来も変わるってことですよね。その辺りが落としどころかなって感じもします。

ただ、チャネルにはきちんと答えを提示してくださいね。(笑)

「円環少女 (13) 荒れ野の楽園」の感想はここ