S 『少年は荒野をめざす』 吉野 朔実

この夏は、見たいアニメもあまりなく、何をブログに何を書こうかと悩んでいました。一先ずこのブログは、色々な本・アニメ・マンガを中心にした感想ブログなので(えぇ、初めて知った?)感想記事を上げることに。

最初は、アニメの補完をしようかとも思いましたが、うちの娘さんが漫画家になりたいとか小学校で言っているようなので(苦笑)、自分の好きだった漫画のベスト10を一冊ずつ書いてみようかと思います。

で、第1回は、気持ち的には高橋 亮子さんの『坂道のぼれ!』か吉野 朔実さんの『少年は荒野をめざす』のどちらかにするしかないんですが、『坂道のぼれ!』は絶版なので、初っぱなからそれはどうかと考え『少年は荒野をめざす』を選ぶことにしました。第2回は、『坂道のぼれ!』にしようかな?

最近の漫画も否定はしないんですが、どうも軽いというかエンターテイメントとしか読んでいない気がしているので、自分が学生のころに読んで影響を受けた ということをポイントに昭和時代の漫画を中心に選んでみたいと思います。

ということで、いきます。

マイベストコミックス:2位(今日の気分)
題名:『少年は荒野をめざす』
作者:吉野 朔実
発表年月:集英社「ぶ~け」1985年9月号~1987年9月号

あらすじ:

15歳の少女・狩野 都は、5歳のときに7つ年上の兄・翠を亡くしていた。幼いころ彼女は、病弱だった兄の代わりに野原を駆けめぐっていた。そして兄を失った彼女は、その記憶を抱えたまま成長してきた。そして彼女は、その記憶を「少年は荒野をめざす」という小説にする。

都は、自分を少年だと考えていた。そして彼女は、身体が弱く何もできなかった兄に代わりの人生をやり直す。兄が通うはずだった学校、見るはずだった世界・・・少年は、いつも彼女の中にいた。

高校進学。進路を決定できない都は、見学に行った蒼陵高校で、自分の中の少年を見つける。 彼の名は、黄味島 陸。自分の中の少年と出会った都は、目指す高校を蒼陵に決める。

そんな中、複雑な生い立ちを持つ陸との出会いは、都の生活にも波紋を与える。さらには、文化祭の文芸部誌に掲載された「少年は荒野をめざす」は、ひょんなことから文学賞の佳作を受賞してしまう。

ゆっくりと形を変えて転がりだす都と陸の未来。二人は、どう立ち向かっていくのか。

感想:

キャプチャ画像を「ぶ~け」コミックスにしたかったンですが、表紙的には今の方が綺麗な絵なのでやめ。

このころの「ぶ~け」は、すごい面子ですね。内田 善美さんの『星の時計のLidel』とか逢坂 みえこさんの『永遠の野原』とか、水樹 和佳さんの『樹魔・伝説』とか。昭和60年近辺の「ぶ~け」だけで、ベスト10が作れそう。

その中で、吉野 朔実さんです。吉野さんは、最近ではすっかりサイコサスペンスに傾いちゃっている感じがありますが、その原点はここにありそうです。これ以前の『月下の一群』なども好きなんですが、普通に面白いって感じですから。

で、この『少年は荒野をめざす』がそれらと一線を画して異彩を放っている理由は、その青さにあるのではないでしょうか。

少年になりたかった15歳の狩野。その年相応の揺れる視点で物語を頭でっかちとも呼べるような描写でしっかりと描いています。最近の作品がサイコサスペンスならば、この作品は文学しているって感じでしょうか。

少年になりたかった狩野 都と、生い立ちが複雑な黄味島 陸。二人の出会いと迷いが、綺麗な絵とさまざまな比喩や記号に彩られた言葉、印象的なエピソードで描かれています。

初めて読んだときには、登場人物と年が離れていなかったこともあって、かなり狩野の影響を受けた記憶があります。アイデンティティの模索と言えばいいのでしょうか、なりたい自分とのギャップというのでしょうか、その辺りがテーマだとは思うのですが、それよりも狩野の理屈っぽい考え方に影響を受けた気がします。

今初めて読むと、結構心理学的な記号をそのまま引っ張ってきている部分もあって、素直に楽しめないかもしれませんが、高校生ぐらいのときに読むといい漫画でしょうね。

漫画ですから絵も重要なファクターなのですが、丁寧で白と黒を大胆に組み合わせた構図を使った絵は本当に綺麗で、その点からもすごく好きです。こういう絵が描きたいとも一時期おもっていましたが、できませんでした。(泣)

最近の漫画はこういう文学っぽいテーマをむき出しで消化する、昔の少女漫画のようなものがなくなってきていてかなり残念です。というか、年相応に読まなくなったのかも。