F 「ふたりの距離の概算」米澤 穂信
角川書店 ISBN:978-4-04-874075-3-C0093

「わたし、気になります。」って感じで待ってました。〈古典部〉シリーズの最新刊『ふたりの距離の概算』です。

ところで、「このミステリがすごい!!」で作家別の得票では、ダントツで1位だったのは確かですが、それを半年以上経った今、本の帯にするのはどうかと思うなぁ。「米澤穂信はここから始まる!」っていうのも、〈古典部〉シリーズがデビュー作と知っていれば意味が分かりますけれどね。スニーカー・ミステリ倶楽部の『氷菓』の初版を持っている身としては。

米澤さんバブルは、『インシテミル』が映画化されることで、確実になってきていますが、『インシテミル』が選ばれてしまったのはどうかなぁ。あの作品は、米澤さんではイレギュラーだと思うんですが。

ということで、〈古典部〉シリーズの最新刊『ふたりの距離の概算』の感想に行きます。

一先ず出版社から、あらすじを引用しておきます。

あらすじ:

春を迎え、奉太郎たち古典部に新入生・大日向友子が仮入部することに。

だが彼女は本入部直前、急に辞めると告げてき た。

入部締切日のマラソン大会で、奉太郎は長距離を走りながら新入生の心変わりの真相を推理する!

感想:

〈古典部〉シリーズが何か知らないという方は、wikiを使っていただくか、うちのブログのこの記事辺りを読んでいただくとして、一先ずシリーズをご存じという前提で記事を書きます。

はいはい。面白かったです。もうすごっく面白かったです。スタイル的には、安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)の亜流って感じで、折木 奉太郎がマラソン大会で走りながら推理するって形式を採っています。まぁ似たような形式を採っているミステリもないとは言えませんが、マラソン大会は史上初ではないでしょうか。(汗)

しかし、タイトル上手いですねぇ。『ふたりの距離の概算』であり「ふたりの距離」ではないんですよね。二人が誰かというのは、色々と意見がありそうですが。

で、中身の話しをする前に、ちょっと残念だったところをば。いえ、大した話ではないのですが、今回は千反田 えるちゃんが、事件の起点ではありません。どちらかというと容疑者ですね。なので、「わたし、気になります。」がほとんど登場しませんし、あまり活躍しません。寂しいです。ね、大した話ではなかったでしょう?

というか、どちらかというと、奉太郎と福部 里志の関係が強調されています。そういう嗜好の女性ファンには受けがいいかもしれません。

話が逸れました。

で、ここからは本格ミステリ向けの注意書き。

<以下、本の中身に言及している部分があります。ネタバレにはなら ないようにしますが、未読の方はご注意を>

ストーリーですが、どちらかというと、今までは〈古典部〉シリーズよりも〈小市民〉シリーズの方が人の暗い部分を抉るというか重い話が多かったのですが、 今回は全体に〈小市民〉シリーズ的です。ストーリーが重い雰囲気で進みます。それは、新入部員がやめることになった真相を追うというテーマ的な原因もある のでしょうが、軽い青春エピソードが少ないという部分にもよるのでしょうね。事件の真相もまさに〈小市民〉シリーズ的ですし。

で、謎解きですが、奉太郎の推理は例によって物的証拠というものは出てきません。ほとんどが大日向 友子の言葉で推理をします。それなので、マラソン大会探偵が成り立つわけですが、いくら論理的に推理が進んでも、やはり長編の内容としてはちょっと強引かなって感じる部分もあります。

それでも、読ませるしかもなぜ入部を取りやめたのかという些細な日常の謎だけで長編を引っ張れるのは、やはり米澤さんが上手いからでしょうね。推理場面で過去のエピソードが時系列にカットバックされるのですが、その切替えタイミングで、マラソン大会を走る容疑者たち(?)を順番に登場させるという構成が上手く嵌まったという気もします。

ただし、やはりこれは〈古典部〉シリーズの最新刊で、過去のシリーズを読んでいないとかなり苦しいと思います。えるちゃんの家のことや『遠まわりする雛』のエピソードが出てきても未読の人には分かりませんし、それが分からないと奉太郎の誕生日のエピソードの面白さが半減すると思います。

しかし、色々と古典部のメンバー間の関係に進展があったことが示唆されますが、具体的には出てきませんね。やはり『遠まわりする雛』のチョコレートにはそういう意味があったのですね。それは、前の感想を読んでください。とういか、その進展辺りが非常に読みたいのですが。

「わたし、気になります。」

「古典部シリーズ」の感想はココ
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