B 「“文学少女”見習いの、初戀。」野村 美月
ファミ通文庫(エンターブレイン) ISBN:978-4-7577-4829-3

映画化も決まって、すっかりファミ通文庫の看板となっている“文学少女”シリーズの新刊です。映画化情報は、この辺りが今のところ最新かと。Production I.Gですか。「プロジェクト・メモワール」の一環ということで、公式にもそのうち情報が載るでしょう。コミックも発売されて、仕掛けてますねぇ。

ということで、今回は、遠子先輩の登場しない“文学少女”の長編ということで、名探偵がいない探偵小説となるわけですが、どうまとめられるのか非常に楽しみです。

ということで、“文学少女”シリーズの新刊です。

例によって、あらすじを出版社から引用します。

あらすじ:
文学初心者の少女が綴る、もうひとつの“文学少女”の物語!

聖条学園に入学した日坂菜乃は、ひとりの上級生と出会う。文芸部部長、井上心葉。

遠い人を想い時折切ない目をする彼に、強く惹かれる菜乃だったが、まるで相手にされず、落ち込む日々を過ごしていた。けれど、菜乃がある事件に巻き込まれ、追い詰められたとき、心葉は告げる。「気づかないふりも、目をそらすことも、もうしないって誓ったんだ」

――彼とともに、菜乃は、物語に隠された真実を探し動き出す……! 

もうひとつの“文学少女”の物語、ここに開幕!!

感想:
むみゅみゅみゅみゅ、複雑な気分ですなぁ。

シリーズを通して読まれている方はお分かりでしょうが、遠子先輩の卒業でこのシリーズはひとまず幕を下ろしています。しかし、心葉くんは、別に中途退学するわけでもないので、まだ学校に残っているわけです。そこには、芥川やななせちゃんもいてちょっと微妙な生活になっているはずです。

ということで、遠子先輩の登場しないこのお話ですが、時系列的に本編からつながっていて、正当な続編ともいえます。でも、やはり遠子先輩が名探偵として活躍しないこのお話を続編と呼ぶには躊躇いがあるので、やはりスピンオフなんでしょうね。「見習い」ってついているし。

ということで、主人公は新入生の日坂菜乃ちゃん。中学はテニス部で、“文学少女”からは程遠い生活をしていた彼女は、心葉くんを見初め文芸部に入部するところから始まります。

導入のお話は、それこそスピンオフの王道的なもので、ニヤリとさせられますが、そこは本編に続く長編なので、それだけでは終わりません。

今回のお題は、近松門左衛門の『曾根崎心中』です。ヘッセの『デミアン』ではありません。『デミアン』なら読んでるのになぁ。

ということで、このシリーズの特徴の「見立て」と「叙述トリック」は健在で、しっかりとミステリしてくれています。それで行けば正当なシリーズ続編ですね。

旧シリーズの感想は、本カテゴリを前にたどってください。

<以下、本の中身に言及している部分があります。ネタバレには気をつけますが、未読の方はご注意を>

ただし、今までワトソン役だった心葉くんが、遠子先輩がいなくなることでホームズに昇格することで、微妙に雰囲気が変わっています。菜乃ちゃんの性格もあって、いつも通り重い話なのですが、今までの心葉視線でない分抱えるものが違うためかどうしても軽くなりますね。

それもあってか、読み始めてしばらくはイライラしてしまったのですが、途中からは彼女のこのシリーズの登場人物にはないまっすぐさが面白くなりました。うまい組み合わせですね。考えられているというか。

でも、自分は、ガチガチの琴吹ななせちゃん派なので、非常に微妙な気分です。彼女は心葉一途で、本当は幸せになって欲しかったんだけれど。

この「“文学少女”見習い」シリーズは、もう少し続くようなので、しばらくは追ってみたいと思います。