S 「時間封鎖〈上〉〈下〉」ロバート・チャールズ・ウィルスン
創元SF文庫(SFウ-9-3,SFウ-9-4) ISBN:978-4-488-70603-6,ISBN:978-4-488-70604-3

自分は決して熱心なSF読みではないので、評価が難しいのですが、2008年のSF小説ナンバーワンと言われている「時間封鎖」です。決して同時期に発売された某ゲームの感想ではありません。(苦笑)

2006年にSF界ではもっとも権威のある賞であるヒューゴー賞 長編小説部門を受賞しています。巷では2008年どころかゼロ年代(2000~2009年の意味か?)ナンバーワンという人もいるようですね。

でもタイトルは、原題の「SPIN」の方がいいと思うなぁ。

ということで、出版社からあらすじを引用しておきます。

あらすじ:
〈上〉

ある夜、空から星々が消え、月も消えた。翌朝、太陽は昇ったが、それは贋物だった……。

周回軌道上にいた宇宙船が帰還し、乗組員は証言した。地球が一瞬にして暗黒の界面に包まれたあと、彼らは1週間すごしたのだ、と。だがその宇宙船が再突入したのは異変発生の直後だった――地球の時間だけが1億分の1の速度になっていたのだ! 

〈下〉
界面を作った存在を、人類は仮定体(仮定上での知性体)と名づけたが、正体は知れない。

だが確かなのは――1億倍の速度で時間の流れる宇宙で太陽は巨星化し、数十年で地球は太陽面に飲み込まれてしまうこと。

人類は策を講じた。界面を突破してロケットで人間を火星へ送り、1億倍の速度でテラフォーミングして、地球を救うための文明を育てるのだ。

迫りくる最後の日を回避できるか。

感想:
確かに、設定はSFなんですが、中身はちょっと違いますね。どちらかというと、SFというよりも語り手を含む3人の主人公の人間ドラマでしょうか。それに宗教とはなにかとか、観念的な話題なども盛り込まれて、結構日本人受けする内容ではないかな?

日本のSFっていうと、最近はラノベが主流のような感じですが、海外ではまだまだ面白いものがあるのですねぇ。自分の中ではSFというとニュー・ウェーブ(「結晶世界」とか「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」とか)からサイバー・パンク(「ニューロマンサー」とか)辺りで止まっているのでなかなか面白かったです。その後は、モダンホラーなんかに行ってしまったので。まぁ主軸はミステリにありますけれど。

で、小説ですが、突然地球がスピンという膜で覆われて、地球人類が外界より1億倍も遅い時間の流れにいきなり放り込まれるという設定です。この1億倍というのがみそなんですがネタバレはしません。1億倍の速さで外界の時間が進むために、我等の銀河系の太陽が寿命を迎えてしまう危険があり、それをどう乗り越えるかというのが表向きのテーマですね。

この辺りの方策が分かりやすく、というかなんとなく今の科学でも実現できそうで、なかなか面白いです。小説内にも出てくるのですが、グレッグ・イーガンなんかのややこしい科学ではなく、我々文系人間にも分かりやすい科学で、とっつきやすかったです。

でも、最初に書いたように、この小説の真骨頂は人物描写です。超SF的な世界に放り込まれているのですが、主人公たちは泥臭い人間ドラマや、観念的な宗教ドラマをやっているのです。あ、宗教ドラマと言ってもそれを大上段には振りかぶってはいないのでご安心を。

でも難を言えば、やはり仮定体がなぜスピンを作ったかがハッキリしないことでしょうか。いえ、小説内では説明がされていますが、納得できないんですよ。

<以下、本の中身に言及している部分があります。ネタバレにはならないようにしますが、未読の方はご注意を>

スピンが崩壊に向かう文明を救うために仮定体に用意されたものとすれば、時間封鎖の力が納得できなくなります。もちろん、この時間差がなければ有機体リンクも生まれないわけなのですが、逆に太陽の寿命が尽きることでの壊滅に向かってしまっています。そこがしっくりこなかったですね。我々地球人は解決策を見いだしますが、そうでない文明もあるのではないかな?

とりあえず3部策らしいので続きが楽しみです。