D 「断章のグリムIX なでしこ・下」甲田 学人
電撃文庫 ISBN:9784048674201

上巻が8月で下巻が12月ですか。ちょっと間が開きましたね。上巻は、盛り上がるかというところで終わったので、続きが楽しみです。
ということで、「断章のグリム なでしこ」の下巻です。9巻目になります。

いつも思うのですが、電撃文庫って10日発売と言いながら5日とかに出るのは、どうしてなんでしょう?

ということで、出版社からあらすじを引用します。

あらすじ:
それはまるで、枯れることのない手のように白い一本のユリ。

『──────お姉ちゃん』
 悲嘆と暗闇の中で泣いていた金森梢枝の背後から、突然少女の声が囁かれる。背後の闇から聞こえてきた、小さく、くぐもった、しかし異様にはっきりと聞こえた声。忘れもしない、忘れるわけもない、しかし記憶の中以外ではあってはならない、死んだ妹の、“声”。

 金森琴里の自殺を発端に、徐々に悪夢が浸蝕していく海辺の街。だが蒼衣は、ユリと物語の行方が分からぬまま、雪乃を置いて、地元の普通の日常に戻らなくてはいけない。そして悪夢は、蒼衣の予想を大きく裏切り、拡散していく──。

 鬼才が贈る悪夢の幻想新奇譚(メルヘン)、第九幕!

感想:
いや~、やられました。そこかって感じですね。

上巻を読んだ時点では、当然〈潜有者〉は臣意外にあり得ない、配役は王子様とか思っていたんですが、話は大きく展開しました。本当、やられたですね。印象が弱いなんて感想を書いていましたが、下巻は上巻よりもかなり面白いです。

以前から「断章のグリム」はホラーの体裁を借りたミステリだと言っていましたが、今回はその趣を強くした感じでした。どんでん返しってやつですね。それと、予想外の犯人。いや、犯人ではないんですが。

<以下、本の中身に言及している部分があります。未読の方はご注意を>

上巻は、どちらかというと臣の物語でした。下巻は完全に一真の物語ですね。

本当は、雪乃の物語でもあるんでしょうが、彼女の場合、どうも例の〈雪の女王〉で焼き尽くす印象しかなくって、行動に変化が乏しいのが欠点ですね。その分印象が弱くなります。今回も活躍は派手ですが、立場的には脇役ですね。

もう一方の主人公の蒼衣は、まさしく安楽椅子探偵(アームチェア・ディティクティブ)っていう感じでした。彼の〈目醒めのアリス〉と夢見子ちゃんの〈グランギニョルの索引ひき〉さえあれば、物語が成り立つ気さえします。

お話的には、「最後は彼女、千恵が中心となって破滅するような感じがするンですがどうでしょう。」って、上巻の感想で書いていましたが、これは作者が用意したミスリードに、完全に嵌っていました。最後の直前にのそれを見せ球に使っていることからも、意識してやっていますよね。それに引っかかったのか。残念。

ホラー的な要素は、冒頭部分が一番怖かったかな。あの憎まれ役の人が巻き込まれたところもちょっと怖かったですが、今回は先に書いたように雪乃が活躍するので、バトル的な要素が強いんですよ。主人公が活躍すると怖くなくなるって、ホラーは難しいですね。

最後のどんでん返しは、読んでのお楽しみですが、ある意外な人物が鍵を握っているのと、下巻の冒頭にミスリードに導く仕掛けがあることだけをヒントにしておきます。