D 「断章のグリムVII 金の卵をうむめんどり」甲田 学人
電撃文庫 ISBN:978-4-04-867016-6

さて、この4月は、実は自分が感想をアップしている小説の続編が続々と発売されています。レンタルマギカ、図書館戦争もそうですが、第3弾が「断章のグリム」です。
シリーズ初の短編集ということですが、どうなることでしょうか。

では感想行きます。

ということで出版社から、あらすじを引用しておきます。

あらすじ:
時槻風乃は、夜歩く。それは、まだ事件が起きる前の真実──

時槻風乃は、知っている。
この世界と全ての存在は、常に『痛み』という火によって、焼かれ続けている。幼い頃に火傷した時、火という物の本質は『痛み』であると学んだ。──火は『痛い』もの。そして、彼女に燻り続けていた『火』と『痛み』への思索は醸成され、一つの結論へと──。

時槻雪乃のクラスメイトの古我翔花は、継母との確執により、いつも雪乃の家で泣いていた。死んだ母親の居場所を、形見の指輪を守りたいが、翔花は悔しさと悲しみに明け暮れて泣いていた。そんな時、ゴシックロリータに彩られた人形的な美しさを持つ風乃に出会い──。

感想:
ということで、短編集は、序章と三つの短編で構成されています。そしてその内容は、サブタイトルの「金の卵をうむめんどり」からも分かるように、イソップをベースにした<泡禍>のお話しです。いや、最後のお話しは<泡禍>ではないか。

頭の二話は、一般的な<泡禍>のお話しということです。
確かに一般的なということで、〈潜有者〉(インキュベーター)解明などのいつもの謎解き要素は皆無です。なので、蒼衣はほとんど活躍しません。
「断章のグリム」特有の痛みを伴う文章という特徴はありますが、普通のホラー小説ですね。

それに対して、最後の「金の卵をうむめんどり」は、風乃が中心的な役割りを果たす過去ものということで、ちょっと面白かったです。今回の中では一番ですね。

<以下、本の中身に言及している部分があります。未読の方はご注意を>

過去ものなので、風乃があの事件を起こす前のお話しで、彼女がなぜあのような事件を起こすようになったかということが明らかになります。
というか、この「金の卵をうむめんどり」事件が引き金を弾いたって感じですね。

ところで、風乃は翔花を救おうとしたのでしょうか?それとも、どんどん追い込んでいたのでしょうか。
どちらかというと、無意識の傍観者だったんでしょうが、心の奥底には、彼女を救おうという意識があったと思いたいところです。

しかし、ちょっと(かなり)古くさい継母設定には、少し笑っちゃいましたが、猫のシーンはなかなか。こういう触感とかをイメージさせる描写は、本当に上手いです。

で、何か足りないとおもったら、神狩屋のうんちくがほとんどなかったんですね。あれが楽しいのに。アイソーポスぐらいでしょうか。
自分も「断章のアイソーポス」の方がよかったと思いますよ、甲田さん。