B_5 「“文学少女”と繋がれた愚者(フール)」 野村 美月
ファミ通文庫(エンターブレイン) ISBN:4-7577-3084-5

藍麦の本紹介では、初お目見えの“文学少女”シリーズです。
『このライトノベルがすごい!2007』で8位と大健闘し、人気爆発の予感です。
でも、そんなに万人受けするかなぁ?構成とかすごく凝っていて面白いんだけれど。

ということで、お初なので、一応“文学少女”シリーズの概要をば。

シリーズ概要:
“文学少女”シリーズは、文学小説を作品中に取り込み、その小説を本歌取りする形でストーリーが展開していく形式のミステリ小説です。面白いのは、その小説を模した、もしくは似てしまった文章を登場人物が書き、その文章を内部に挟むことで、叙述トリックの形式をも採っているところでしょう。

本歌取りの元になっているのは、誰もが学生時代、それも高校時代に読みそうな名作です。
初登場の「“文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)」では、太宰治の「人間失格」、次の「“文学少女”と飢え渇く幽霊(ゴースト)」ではエミリー・ブロンテの「嵐が丘」が題材となっています。

主な登場人物は、2人。
主人公の井上心葉くんは、14歳の頃に初めて書いた小説が映画やドラマになるほどの大ベストセラーになりましたが、ペンネームの『井上ミウ』が元で女学生と間違えられていました。そして、その騒動とある事件が元になりひきこもりになっていましたが、高校になり、天野遠子先輩に出会い立ち直り掛けています。

“文学少女”こと天野遠子ちゃんは、文芸部での井上心葉くんの先輩です。彼女は、小説の原稿や本を文字通り紙ごと食べる自称美食家で、その所業から心葉くんから妖怪扱いをされています。

この二人が事件に巻き込まれ、その謎を遠子先輩が結果的に解くというのが“文学少女”シリーズです。

あらすじ:
「“文学少女”と繋がれた愚者(フール)」のあらすじを出版社から引用しておきます。

過去に縛られ立ちすくむ魂に、
“文学少女”が語る“真の物語”とは――。

「ああっ、この本ページが足りないわ!」
ある日遠子が図書館から借りてきた本は、切り裂かれ、ページが欠けていた――。
物語を“食べちゃうくらい”深く愛する“文学少女”が、これに黙っているわけもない。「食べ物への冒涜だわ!」と憤る遠子に巻き込まれた挙句、何故か文化祭で劇までやるハメになる心葉と級友の芥川だったが……。
垣間見てしまったクラスメイトの心の闇。追いつめられ募る狂気。過去のあやまちに縛られたまま、身動きできず苦しむ心を、“文学少女”は解き放てるのか――?

感想:
秘密でも何でもないのでばらしちゃいますが、この作品の本歌取りは、武者小路実篤の「友情」です。実篤の作品とこの本のテーマが上手くかみ合って、なかなか感動的な青春小説になっています。どうかみ合っているかは、この本の真骨頂なので説明しませんが、悩む姿がシンクロしていくところは上手いですね。

でも、藍麦はミステリオタクなのですよ。で、ミステリという観点で見るとどうしても、「死にたがりの道化」の方がサプライズの面で出来がよく見えるので、点数が辛めになっています。青春小説としての出来という面は、「人間失格」と「友情」の違いとも言えますし。

それと、実篤の「友情」の引用や説明が繰り返されるのがどうかという気がします。元々がそんなに長い話でもないし、引用のポイントが同じなのでくどかったですね。

でも、「飢え渇く幽霊」よりずいぶん持ち直したと思います。やっぱりブロンテよりも実篤の方が身近だからでしょうか(笑)。でも、とにかく元になっている作品を読んでいた方が10倍楽しめるので、まず元になる作品を読んでから、このシリーズを読みましょう。高校の図書館にあるような本ばかりなので、すぐ読めると思います。

それにしても劇での遠子先輩の語りが感動的でしたね。謎解きをああいう形でやったミステリって、藍麦には記憶にありませんがどうでしょうか?>識者の方。

さて、心葉くんの周りの人物を巻き込みながら、本格的にシリーズが動き出しましたが、次回が非常に気になる引き方でした。シリーズの折返点とのことですが、早く続きが読みた〜い。

ということで、今までのシリーズと本歌取りについてまとめておきます。

・「“文学少女”と死にたがりの道化【ピエロ】」 人間失格(太宰治)
・「“文学少女”と飢え渇く幽霊【ゴースト】」 嵐が丘(エミリー・ブロンテ)
・「“文学少女”と繋がれた愚者【フール】」 友情(武者小路実篤)