Krsb7qsl 「クドリャフカの順番 十文字事件」米澤穂信
角川書店 ISBN:4-04-873618-3

ああ、また米澤穂信か、ですが、今お気に入りなので。
8月刊行の『ボトルネック』も楽しみですが、〈小市民〉シリーズ『秋期限定マロングラッセ事件』早くでないかなぁ。

『クドリャフカの順番 十文字事件』は、米澤穂信のデビュー作となった〈古典部〉シリーズの今のところの最新刊です。次回は『心当たりのある者は』(仮)だそうです。
これまでに、角川文庫から、『氷菓』、『愚者のエンドロール』が出ています。

〈古典部〉シリーズを少し説明しておきます。
「省エネ」をモットーとする主人公・折木奉太郎。彼が入部した「古典部」には、同級生ながら部長である、好奇心が旺盛なお嬢様・千反田えるがいました。
省エネを貫きたいホータローでしたが、千反田えるの「私気になります」の言葉に引きずられて、「古典部」の仲間である福部里志や伊原摩耶花と共に、日常の謎解きに駆り出されることになります。

日常の謎の系譜なので、殺人事件は起きません。元々がライトノベルスレーベルでの出版で、最近の人気で角川文庫へと鞍替えになったこともあり、青春小説というとらえ方もあるかと思います。しかし、ミステリー部分は骨太です。

今回の『クドリャフカの順番』のあらすじを角川書店から引用します。
「待望の文化祭。だが、折木奉太郎が所属する古典部では大問題が。手違いで文集を作りすぎてしまったのだ。古典部の知名度を上げて文集の完売を目指すため、奉太郎たちは学内で起きた連続盗難事件の謎に挑むことに!」

ちなみに「クドリャフカ」とは、スプートニク2号に乗って、最初に宇宙を旅したのはライカ犬です。知らなくても本編に影響はありません(笑)。

ということで、今回は、「古典部」4人の視点を切り換えながら話が進んでいきます。前半は、学園祭の雰囲気を醸しだしながら明るく、前半は、それぞれのメンバーの心理面を描きながらほろ苦い雰囲気で。

米澤穂信の小説技術がアップしているためか、はたまたハードカバーであるためか、『氷菓』などよりも深みが出てきている感じがします。ただし、青春ミステリなので、構えずにどんと読んでも十分楽しめます。

<以下、本の中身に言及している部分があります。ネタバレにはならないようにしますが、未読の方はご注意を>

前作の『愚者のエンドロール』がアントニー・バークリー『毒入りチョコレート事件』のオマージュだったのに対して、この作品もアガサ・クリスティの某作品へのオマージュと言える内容です。

トリックなどはないと言ってもいいのですが、謎解きの一番のヒントがああいう形で提示されているとは気付きませんでした。単にクリスティに倣っていると思っていましたが、それが隠れ蓑になっているとは。

でも、惜しむらくは、謎解きの軸が作中に出てくる同人漫画によっているところですかね。ホータローが、漫画を読んでヒントを得るわけですが、我々読者はもちろんそれを読むことができません。読まなくても、推理可能にはなっていますが、やはりライブ感に欠けると言わざるを得ません。

それを含めても、全体の出来はいいです。でも、どちらかというと、ミステリを齧っている人の方が楽しめるかな。

◆「夏期限定トロピカルパフェ事件」の感想