Bnuic50m 「蜂の巣にキス」ジョナサン・キャロル
創元推理文庫 ISBN:4488547087

いや〜待ちましたよ。10年ぶり?いや9年ぶりですか。ついに出ましたジョナサン・キャロルの新刊です。(号泣)
おまけに、今まで文庫化されなかった「パニックの手」と「黒いカクテル」も文庫化されるようです。(喜)
おや?「天使の牙から」は?

あらすじ:
ベストセラー作家であるサムは、創作に行き詰まっていた。そんなある日、少年時代を過ごした街にぶらりと立ち寄る。そこで、彼は30年前の少年時代に発見した美少女の死体のことを思い出した。

サムは、そときの出来事を元に作品を書くことを思いついた。湧き出るアイディアに酔いしれ、事件を追っていく彼の前に現れたのは、かつて彼のサイン会に来たヴェロニカという女性だった。

必然と言ってもいいように結ばれる二人だったが、サムの小説は彼の知らないうちに思わぬ波紋を投げかけていた。

感想:
藍麦は、キャロルの「死者の書」がALL TIMESのベスト10に入るぐらい好きなので、冷静さを欠いた感想かもしれません。(汗)

いつものダークファンタジーを期待して読むと、少し肩すかしに合います。間違いなく。ミステリ的にケリがつくとか何かの紹介に書いてありましたが、ケリなんかついていません。まぁ、最後に綺麗に決着がついてはキャロル作品ではありませんしね。

ただ、いつものキャロルの語り口は健在です。特に前半の幸福感の盛り上げ方はさすがですね。言葉の使い方も大好きです。
あと、人間関係というか人の絡ませ方も上手いです。それぞれ一癖ある人たちが、時間を超えて複雑に絡み合うのは、普通なら特に翻訳本となると混乱しがちですが、するすると読めます。というか、止まらない!そして、その勢いで読んでいると、中盤からはいつの間にか前半の幸福な出来事がことごとく覆されていくのも、いつものキャロル節ですね。

<以下、本の中身に言及している部分があります。未読の方はご注意を>

途中で、これはキャロル「の」大ファンというキングへのオマージュかなとも思いました。そう「ミザリー」ですね。でも、全然違いました。解説で豊崎女史がクックと言っていましたが、違うでしょう。やっぱり、キャロルはキャロルです。

死んだ「蜂の巣」というあだ名の少女と対を成すようなヴェロニカの造形。そして、まさに「入り組んでいて、せわしない。いつも飛び回っていて、その気になればいやというほど刺せる」とうい「蜂の巣」は、ヴェロニカにこそ合っていそうです。しかし、そんな彼女もポンと殺してしまう。どんでん返しとも違うそんなひっくり返し方は、キャロルの独壇場ですね。こうあって欲しいという方には絶対に転がらない。(笑)

また、キングはどんどん読者をその世界の中へと引きずり込んで行くのに対して、キャロルは前半で中へと招いておいて、入って行くと実は外から眺めていたというような書き方です。それは、彼が作中作や映画などを良く作品に登場させることと不可分でしょう。今回の「蜂の巣にキス」でも、サムのドキュメンタリーが出てきますが、それを見ている姿を見ているサムに感情移入している読者。そうまるで「蜂の巣」のよう。

とまぁ、書いていますが、やっぱり最後に世界が壊れていくいつのもパターンがないと寂しいですね。東京創元社さん、残りも必ず出してね。