I 「春期限定いちごタルト事件」米澤穂信
創元推理文庫 ISBN:978-4-488-45101-1

今、日本のミステリ作家で、藍麦が一押しの米澤穂信の新刊が出ました。

〈古典部〉シリーズに続く、新シリーズ、題して<小市民>シリーズです。今回も期待に違わぬ、いや期待以上の出来です。

表紙の片山若子さんもいい感じですね。

ということで感想行きます。

あらすじは、出版社から引用しておきます。

あらすじ:

小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校1年生。きょうも2人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。

それなの に、2人の前には頻繁に謎が現れる。

名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に駆られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星をつかみとることができるのか? 

新鋭が放つライトな探偵物語。

感想:

<小市民>シリーズとは、探偵癖をやめたい小鳩くんと、復讐好きをやめたい小佐内さんの二人の高校生が、「小市民」たることを目指すことからついています。しかし、二人は、恋愛関係でも依存関係でもありません。言うなれば、互恵関係にある二人。

そんな二人が向かい合うのが、日常の謎。といいながら、小佐内さんの嗜好が「復習好き」なので、事件は自然と〈古典部〉シリーズよりも重いものになります。

本としては、連作短編なので、短編集といいながらも一冊の本として評価すべきなんでしょうが、ちょっと短編ごとの感想を書いておくことにします。

◆羊の着ぐるみ

小鳩くんと小佐内さんそれぞれの嗜好(?)と、二人の目指す<小市民>についてが記された一編。「羊の着ぐるみ」は、小市民のことですね。

謎は、それほどこみ入ったものではありません。

健吾がちょっとうざいかも。

◆For your eyes only

これは事件らしい事件。といっても日常の謎というかクイズのようなもの。

勝部先輩の最後のシニカルなセリフが、このシリーズの色合いを良く示しています。

この短編が、この本の軸になる謎を提示しますが、この短編ではそれが話題にはなりません。

◆おいしいココアの作り方

この本の中では、実は一番本格ミステリしている一編。面白いです。

論理だけで謎を解く安楽椅子探偵ものです。これだけでも読む価値があります。

◆はらふくるるわざ

なぞらしいなぞはなく、小佐内さん可愛いなお話し。

というか、「For your eyes only」で蒔いた種の芽を出しておく必要があったという感じですか。

◆孤狼の心

シリーズ全体の謎がここに集束していきます。

そして、<小市民>になろうとする探偵役の小鳩くんについては、ここまででもその背景が描かれていますが、小佐内さんについてはよく分からなかったというかぼやかしてあったんですよね。

それはすべてこの短編のためということがわかります。というか、小佐内さん素敵。

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今後も、春~冬まで続くであろうこのシリーズ、二人の関係がどうなっていくのか見届けたいところです。