Kcmbn7z8 「魔王」伊坂 幸太郎
講談社 ISBN:4-06-213146-3

伊坂 幸太郎なので、ハードカバーで買ってしまいました。でも、ハードカバーで1300円は安いよね。しかも伊坂幸太郎だよ。ね、ねっ?
ということで、ハードカバーで買ってしまったことを後悔しつつの書評です。

はっきり言って、これをミステリー評論に分類することに無理がありそうです。今までの伊坂幸太郎本の中で、一番ミステリー色が薄いです。「魔王」と「呼吸」という連作短編で構成されており、一応、謎のようなものが出てきてその謎解きらしいものもされますが、やっぱりミステリーぢゃないよね。

「犬養」というカリスマ的魅力を持った政治家をスケープゴードにして、安藤兄のぐるぐる巡る考えの迷宮を超能力をソースにして料理してあるのが「魔王」。

その後総理大臣にまで上り詰めた「犬養」を同じようにスケープゴードにしながら、安藤弟の考えと決意を他人の視点から描いて見せたのが「呼吸」。こちらも超能力がスパイスとして加えられています。

両方の話しに通じて出てくるキーワードが、「ファシズム」ですが、伊坂幸太郎本人によると、特に政治小説を書こうとか、「ファシズム」をテーマにしようとかは考えていないとか。でも一読すると、「ファシズム」がテーマだよね。村上龍の『愛と幻想のファシズム』なんていう「ファシズム」をテーマにした強力な小説があるけれど、「ファシズム」を伊坂風に料理するとこうなるというのなら納得できたかもしれない。でも、彼は「ファシズム」がテーマではないという。

じゃあ、何がしたかったんだというと、見事にわかんないんですよ。

ただ言えることは、今までの伊坂幸太郎の本とは違うということです。
伊坂幸太郎というと、張り巡らせた伏線が、それが短編集であろうと最後に見事に集約していくというところに特徴があったと思います。また、それが決して明るい、ハッピーエンドでなくても爽快感に繋がっていたとも思います。しかし、この小説にはそれがありません。確かに伊坂風の独特のキャラクターは出てきますが、それだけです。

で、藍麦が伊坂幸太郎の小説に何を求めているかというと、先の見事な着地なんですね。それが好きで読んでいます。

ということで、この「魔王」は余り評価しません。政治小説だと言ってくれれば、星もうひとつ上げてもいいんですがね。